2013年4月17日水曜日

アムステルダム国立美術館、グランドオープン

Rijksmuseum. Photo credit: Iwan Baan. Image courtesy of Rijksmuseum

オランダのアムステルダム国立美術館が10年の改修工事を経て、2013年4月13日にグランド・オープンを迎えた。80からなる展示室では、17世紀の黄金時代を含む800年のオランダの美術と歴史を辿れるように、約95万点の所蔵作品の中から厳選した8000点が展示されている。
改修工事はスペインの建築家ユニット、クルス&オルティスにより行われた。彼らは美術館を設計したカイパルスに敬意を払い、「21世紀のカイパルス」を合言葉に、21世紀にふさわしい美術館へと変化させつつ、1885年に開館した当時の姿をよみがえらせた。

1876年、国立美術館建設のための建築設計コンペで、ピエール・カイパルス(1872-1921)が選出された。カイパルスはアムステルダム中央駅(1889年)など100以上の建築を手がけ、19世紀後半のオランダ建築を牽引した人物である。そのカイパルスが設計した美術館には330の展示室が用意され、室内も外壁も豪華な装飾を施されていた。彼の意を受けて建築装飾を担当したのはオーストリアの画家ゲオルグ・シュトゥルム(1855-1923)である。しかし完成当時から、豪華な装飾が作品鑑賞の妨げになるとして問題視され、1903年にはとうとう、展示作品にそぐわないとの理由で一部の壁が塗り替えられてしまった。さらに1920年代からは少しずつ装飾が取り外されたり隠されるなどして、1950年代に行われた改修工事を経た後には、すっかりオリジナルの姿からは遠いものとなってしまった。


左上: Great Hall. Photo credit: Jannes Linders. Image courtesy of Rijksmuseum
右上: Night Watch Gallery. Photo credit: Iwan Baan. Image courtesy of Rijksmuseum
左下: Gallery of Honour. Photo credit: Iwan Baan. Image courtesy of Rijksmuseum
右下: Great Hall. Photo credit: Jannes Linders. Image courtesy of Rijksmuseum



今回の改修工事の重要な事業のひとつは、この装飾を再びよみがえらせることにあった。もっとも重点が置かれたのは2階にある「大広間」と「栄光の間」である。「大広間」の床はモザイクで彩られ、大きな窓にはステンドグラスが輝き、壁面には芸術家や学者、歴史上の人物とともに、芸術や科学技術を讃える寓意画が描かれている(写真左上)。大広間に隣接する「栄光の間」に続く扉の上には、《希望、信仰、愛の寓意》が描かれている(写真右下)。「栄光の間」には、17世紀のオランダ黄金時代を代表するフェルメールやフランス・ハルス、ライスダールなどの作品が並べられ、一番奥にはレンブラントの最高傑作《夜警》のために「夜警の間」が設けられている(写真右上)。素晴らしい作品群に目を奪われてしまうが、視線を上に向けると意匠を凝らした建築装飾が目に入る(写真左下)。10ヶ所あるルネット(壁面上部の半円形の部分)には、それぞれ芸術分野を象徴した女性とそれに従事する職人、その分野に結びつきの強いオランダの都市の紋章が配置されている。例えば、陶芸のルネットには、デルフト焼を手にする女性、陶器職人、そしてデルフトを有する南ホラント州の紋章が描かれてる。素晴らしい作品を生み出す職人たちと彼らを育んだオランダが讃えられているのだ。

改修工事に伴い、アジアの作品を紹介するためのアジア・パヴィリオンが増設された。また企画展を行う会場としてフェリップス・ウィングも改築中である(2014年完成予定)。アムステルダム国立美術館は歴史を尊重しながらも、時代の変遷にあわせた美術館へと変化し続けている。
アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum
Museumstraat 1
1071 CJ Amsterdam
The Netherlands
https://www.rijksmuseum.nl/en
開館時間:
9:00-17:00 年中無休

2013年4月1日月曜日

印象派カイユボットと写真



図1 Gustave Caillebotte, The Floor-Scrapers, 1875, Musée d’Orsay, Paris

オランダのハーグにある市立美術館で、印象派の画家カイユボットの展覧会が開催されている。ギュスターヴ・カイユボット(1848-1894)は、印象派展に5回にわたって参加した、印象派の代表的な画家である。
裕福な家庭に育ったカイユボットは、まだ世間に認められていない印象派の作品を、購入するなどして経済面で支えた人物でもある。カイユボットの死後、遺言によって所有していた作品はフランス国家に寄贈された。現在、パリのオルセー美術館で印象派の作品を一堂に見られるのは、彼の功績によるところが大きい。

1874年、カイユボットは第1回印象派展を訪れた。そこにはモネの《印象-日の出》など光にあふれた新しい絵画が展示され、彼は魅了されてしまう。《床の鉋がけ》(図1)は第一回印象派展を訪れた後に描いた作品である。窓から差し込む光を背に浴びながら床を鉋で削る3人の労働者が描かれている。この絵を賞賛したドガの勧めで第二回印象派展に出品し、高い評判を得た。


図2 Gustave Caillebotte Pont de l’Europe, 1876 – 1877
Kimbell Art Museum, Forth Worth, Texas
 カイユボットはその後、当時暮らしていたパリのアパルトマンからみた風景やその近辺の通りの情景など、都市風景を主題として描くようになった。19世紀半ば以降、セーヌ県知事オスマンによるパリ改造により、今日見るようなパリの大通りや公園、鉄道駅が整備された。《ヨーロッパ橋》(図2)では鉄骨でできた橋の奥に、サン・ラザール駅が見える。カイユボットは新しく変容する近代都市景観を観察し、同時代の変化を捉えようとした。
図3 Gustave Caillebotte, The Pont de l’Europesketch,
c.1876, Private Collection

同じヨーロッパ橋を別の角度から描いた《ヨーロッパ橋、習作》(図3)の構図は大変興味深い。この作品では前景の幅いっぱいの道が、シルクハットをかぶる男の頭の後ろで急角度で収束している。この特徴的な遠近法は、カイユボットが作品制作の際に写真を利用していたことによる。

カーク・ヴァネドーとピーター・ガラシによる研究で、カイユボットは構図を決める段階で、しばしば広角レンズをつけたカメラで撮影した写真を用いていたことが明らかにされている。広角レンズは広い範囲を撮影することができる反面、広い範囲を圧縮してしまうために遠近感が強調される。この効果をカイユボットは絵画に取り入れたのだ。


この展覧会では、当時のパリの都市風景を撮影したステレオ写真のための一室も用意されている。ステレオ写真とは同じ写真を専用の眼鏡でのぞくと画面が立体に見える仕組みの写真である。のぞくとあたかも自分が19世紀のパリへタイムスリップしたかのような錯覚におちいる。これらの写真とカイユボットの作品を見比べることで、写真が絵画にもたらした革命の一端を知ることもできるだろう。

ギュスターヴ・カイユボット展は5月20日まで開催(月曜日休館)
デン・ハーグ市立美術館 Gemeentemuseum Den Haag
Stadhouderslaan 41
2517 HV The Hague
The Netherlands
http://www.gemeentemuseum.nl/en
開館時間:
火曜日-日曜日 11:00-17:00
休館日 毎週月曜日