2014年5月23日金曜日

「ルーヴル・ アブダビ」と心躍る作品群お披露目


来年開館予定のルーヴル・アブダビ外観模型
ルーヴルの名を持つ美術館が、アラブ首長国連邦のアブダビに誕生することは、すでにご存知の方も多いことと思う。名称は「ルーヴル・アブダビ」で、開館は来年2015年12月が予定されている。


紀元前2000年頃のバクトリアの姫君像(中央アジア) 
Bactrian princess Central Asia,
late third-early second millennium BCE
パリのルーヴル美術館ではこのほどBirth of a Museum(美術館の誕生)という特別展が始まったが、この特別展で一足先に、「ルーヴル・アブダビ」のメイン展示物が堪能できる。この展示物の多種多彩なこと、どれもこれも美しい輝きを放っている。一例を挙げると、とても愛らしいクロライト(緑泥石)の小さな「姫君像」(紀元前1000年頃の中央アジアで制作)、半リングの両端が見事なライオンの彫金になっている紀元前700年頃の黄金のブレスレット、このほかインドの大理石の仏頭や、真珠貝や鼈甲を散りばめた多角形の用具箱(中国、唐代)など、ため息をつかずにはいられない宝物ばかりである。

日本の掛け軸とローマの彫刻が織り成す「静と動の空間」

絵画に目を転じると、西洋絵画だけでも、ヴェネチア絵画の創始者ジョヴァンニ・ベッリーニの聖母子、フランスからはコローの詩情豊かな風景画、マネのボヘミアン女性、さらにピカソやマグリットの作品やイヴ・クラインの単色絵画など、時代を網羅し多彩な題材の素晴らしい作品が集められている。展示も見事である。日本の掛け軸が肉体美の彫刻像と相対し、インド、トルコ、ペルシャの細密画が姸を競い、屏風を背景にアールデコ風の脚付き机が置かれているといった具合である。




ルーヴル美術館は2012年12月、パリ北部にあるかつての炭坑町ランス市に別館を開設している。このランス別館の目玉である常設展示は「時のギャラリー」と銘打っており、ルーヴルが所蔵する文字の始まった時代の作品から19世紀の絵画、彫刻まで、数千年に渡るオリエントと西洋の美術の歴史をひとつの広い空間で味わうことができ、大評判を呼んでいる。これに対して「ルーヴル・アブダビ」はユニバーサルを謳い文句に作品群が世界中から収集されている。この作品集めはフランス美術館局(Agence France-Museums)というフランス政府の組織により行われた。フランス美術館局を構成するのは「ルーヴル」「ポンピドーセンター」「オルセー」「オランジュリー」「グランパレ」「ヴェルサイユ」などパリ周辺の国立美術館と公共施設合わせて12の団体である。「ルーヴル・アブダビ」は7年前に、フランスとアラブ首長国連邦の政府同士で合意したものであり、両国の威信をかけた大プロジェクトと言うことができる。

「ルーヴル」の看板は30年間使用できるそうで、アラブ世界で始めての世界規模の美術館をルーヴルの名の下に築き上げるという壮大な計画であると両者は胸を張っている。作品はルーヴルを始めとする上記の団体の所蔵品、そして今回展示されている美術品群が中心となるが、早々とこれだけの作品が集まるとなると、来年の開館の時はいったいどんな展示がお披露目されるのか楽しみである。

Birth of a Museumは7月28日まで。

ルーヴル美術館 The Louvre
75001 Paris
France
地下鉄:1番線または7番線、Palais-Royal Musée du Louvre 駅
http://www.louvre.fr/jp
開館時間:
月・木・土・日:9時-18時
水・金:9時-21時45分(夜間開館)
休館日:
毎週火曜日、1月1日、5月1日、12月25日

日本テレビは、ルーヴルの3大至宝「モナリザ」「ミロのヴィーナス」「サモトラケのニケ」の修復や展示環境の整備に協力をし、定期的に日本でルーヴル美術館展をルーヴルと共同で開催しています。

2014年5月10日土曜日

ロッソ、ブランクーシ、マン・レイ

図1_Constantin Brancusi, La Muse endormie,1910. Arthur Jerome
Eddy Memorial Collection.
The Art Institute of Chicago. © 2013 c/o Pictoright Amsterdam /
Medardo Rosso, Enfantmalade, © 1909. Private collection /
Man Ray, Noire et blanche, 1926. © Man Ray Trust /
ADAGP - PICTORIGHT / Telimage - 2013 / Design: Thonik
現代彫刻への道を切り開いた三人の彫刻家、ロッソ、ブランクーシ、マン・レイの展覧会がオランダのロッテルダムにあるボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館で開催中である。彫刻作品40点と彼らが自ら撮影した写真60点以上が並べて展示され、写真を通して芸術家の視点や制作過程に焦点を当てる。

20世紀初頭、写真が一般の人でも撮影できるようになると、芸術家のなかに自分の作品の記録写真を撮るものがあらわれた。ロッソ、ブランクーシ、マン・レイの三人も自らの作品を撮影したが、アングルや背景を変えたり、写真を再加工したりすることによって彫刻作品の創作の意図がより正確に伝わるように工夫した。ロッソは彫刻に印象主義的手法を取り入れ、光が彫刻に及ぼす効果を考えて形態を大胆に省略し、一瞬の表情と周りの空気を切り取った。彼は絵画のような彫刻と評される作品をソフト・フォーカスで撮影して輪郭を曖昧にすることで、光と戯れる彫刻を表現した。そののち写真を切り貼りしてコラージュにしたり、インクで描き込んだりと手を加えて次作の構想を練ることもあった。

図2_Constantin Brancusi, Princesse X (Princess X),
© 1930, gelatin silver print, 29.7 x 23.7cm.
Collection Centre Pompidou, MNAM-CCI, Paris.
© 2013 c/o Pictoright Amsterdam.
Photo Bertrand Prévost.
現代彫刻の父として目されるブランクーシは、人物や動物の姿を抽象化し単純な形で表現
した。彼はマン・レイの助けを借りてアトリエに暗室を構え、マン・レイや交流のあった写真家から撮影方法を学んだ。ブランクーシは生前、自ら撮影・現像した作品写真以外のものが世に出回ることを認めず、空間のなかで作品がどのように見えるのかについて強いこだわりを持っていた。彼の黄金色に磨き上げられたブロンズ作品の写真には光を捉えて強く反射したものが多い。一部がハレーションを起こして白くなってしまったものもある。光の効果を強調することで、作品の力強さが表現されている。

三人目のマン・レイは画家であり彫刻家でもあったが、写真家として最もよく知られている。彼の題材選択は枠に囚われないものであり、既存のものや人体を組み合わせて新しい作品を創り出した。また彼はレイヨグラフと呼ばれる、カメラを用いずに印画紙の上に直接物を置いて感光させることにより物体の姿を写しとった。レイヨグラフは現実のものを用いながらも、つかみどころのない世界を創り出している。

彼ら三人の彫刻家の写真作品は、芸術家の目を通して彫刻を知ることができる。展覧会場では、マルチメディアを使って、それぞれの芸術家の写真撮影が体験できるスペースが設けられ、来館者が撮影した写真は美術館のホームページ上で見ることができる。

「ロッソ、ブランクーシ、マン・レイ」展は5月11日まで。(4月21日を除く毎週月曜日と4月26日休館)。


ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館 Museum Boijmans Van Beuningen
Museumpark 18-20
3015 CX Rotterdam
the Netherlands
www.boijmans.nl/en/
開館時間:
火曜日~日曜日 11:00-17:00
休館日:
毎週月曜日及び1月1日、4月27日、12月25日